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 哀しい運命の我らが故郷

 

 

 岡部文夫(190890)は、石川県羽咋郡高浜町生まれの歌人です。日本専売公社に勤務、勤務の関係で北信越の各地に住んでいます。こんな一首がある。

 

 ――雪ぐにの吾の勤めの四十年越後にはじまり越前に終ふ

 

 岡部さんの言葉にあります。「北陸に土着の者にしか作れない作品を創りたいといふのが私の長い間の念願であつた」と。彼にはこの地を詠んだ佳い歌が多くある。なかでも雪の歌でしょう。

 

  今日聞けば今日またひとり屋根雪のなだれに会ひて老の死にたる

  雪ぐにに住むもおのれの業(ごう)としてきびしき冬を堪へつつ生きむ

  ふぶきつつ雪のはげしきかかる夜に死ぬこの者もまた業(ごう)ならむ

 

  雪ぐに育ちのわたしは、これらの歌に38年か56年の豪雪を思うのですが、思い描けましょうか。

 それはさて。岡部さんの歌集『能登』(昭和60年)にこんな歌がありました。

 

 ――立石(たついし)のこの海の村原電を誘ひて道の竣(な)るを

 ――増殖炉また立つといふ危ふきも貧しきゆゑに

 

 立石は、敦賀半島の突端の小集落。であればいまここでこの歌意をあえて説明するまでもないでしょう。

 じつに哀しい運命であります、いつも我らが故郷はというと。 

 

12116

   

廃墓

   
ゴミムシ……
くずおれた墓石を抱え裏返すエイッと
いきなり住みかを暴かれるわ
イシムカデダンゴムシ…… 

ぞろぞろと這いでてくる
どのようにこの場を棲み分けているのやら
そのほか多く夥しい名も知らない
彼や彼女やその子や一統や

ここにこの墓がたまたま
ひどく遠いずっとはるか昔のこと
いまはないご当家の主が建立してこのかた
この暗黒の地中を世界とし

トビムシ……
などなどと棒きれで突っついたりして
じっともう目を離せないのだ
ササラダニワラジムシ……

                               (10・8・6)

      

     

  

ピーポーピーポーピーポー

  

午前猛暑日ももう三十七度超
どこだか遠く救急車が走っている
灼けてぐにゃぐにゃに溶けるアスファルト
ピーポーピーポーピーポー
恩賜公園グラウンド公衆便所
ワィシャツにネクタイにスーツ
便座にしゃがみこんだサラリーマンが突然
ピーポーピーポーピーポー
脂汗たらたら歯噛みしいきみ
こわばり四肢を震い泡吹くぐあい
サイレンに振れ奇声を倍音に発しつづける
ピーポーピーポーピーポー

                (10・8・02)

     

     

 

ムササビ

 
いましも日がしずもう
あたり丈高い樹影ぐるり
こうして行き倒れの骸さながら
うっすらと目を瞑っている

ポポッポポッ  ポポッポポッ
空筒を打つのはツツドリ

ブョッキョッコー   ブョッキョッコー
仏法を説くのはコノハズク

ジュウイチイ ジュウイチイ
慈悲に及ぶのはジュウイチ

どれほどか暗くなってき
樹から樹へ何かと仰ぎ見ると
鳥みたく鳥でない啼かない
亡き母の招きムササビ

                                (10・7・31)

 

      

 

蛇のように

 

チョチーョ チーチーチ
チーチョー チーチーチョ

ノビタキが鳴く
ウツボグサの紫の花
光はまたたく蜂はうなる
蛇のように
若い熱い肌と汗みずく
草いきれの青天井の下
舌に舌を絡め吸わぶり
蛇のように
風はそよぐ蝶はまう
オカトラノオの白の花
オオヨシキリが鳴く

ギョギョシ ギョギョシ
ケケスケケス カイカイシ 

             (10・7・17)

 

: ずいぶんご無沙汰しました。これからまた書いてみます。
ぼちぼちと。宜しくお付き合い下さいな。

 

     

猪を喰う

 

雪が暗く窓を打つ
犬が吠えるその目が光る
クサリに頭を逆さに吊された
仕留めてきたばかりの大猪

天井から下がった電球
幾本かの血のこびり付いた出刃
ストーブで薪が爆ぜつづく
袋の毛皮と袋の骨殻と

やつの腹から抜き出した
ぶるぶると震える腸のかたまり
爺が手際よく刃先を入れ
刺身にして大皿に

うんめぇのとみんなは
コップの焼酎をあおって
醤油をつけて口中へぺろり
うんめぇのとうめく

          (10・2・4)

     

     

     

おめでとうおめでとう

   

   ――《死は歓び/――《死は密やかな歓び/――《死は密やかな尽くしえぬ
 歓び/――《死 は密やかな尽くしえぬ狂おしい歓び/――《死は密やかな尽
 くしえぬ狂おしい隠された歓び       「序詩――死は歓び」(『冬の旅』)

   

正月は元旦の寝覚め
ゆく年の瀬の辛い死が胸を塞ぐ
その昔に親交を得るも久しく無音のF兄
糖尿病を患い人工透析を十年余り
前年に右脚と左腕を切断
満身創痍も隻脚隻腕

当方は通夜も葬儀も不参
あとで人づてに聞くとなし耳にした
あまりにも酷すぎるそれに追われるよう
家を出て公園から上水を急ぎ足で
そこいらを歩き回っていて
わからず擦れ違いざま

おめでとうざんすと
愛犬づれのゴミ拾いあるき小父さん
いつもにっこり人なっこいチャンプW氏
ときにその欠け歯と垂れ目がおかしく
おぼえなく口を衝いてでていた
おめでとうさんです

   

  ●註
  F兄 冨士田元彦 編集者。二〇〇九年十二月十八日、敗血症で死去。享年七十二。
  W氏 輪島功一 タレント。元WBA・WBC世界スーパーウェルター級王者。

                                        (10・1・7)

     

     

 

フユシャクガ(冬尺蛾)

   

尺取り虫の成虫フユシャクガ
この種が活動するのは寒冷の季だが
まずその面妖な姿は想像を超えている
なんとも彼らには口吻つまり口がないのだ
樹液などを吸うと体液が凍ってご臨終
となるので餌を採らないから

してさらに奇怪なことには
メスは翅が退化して飛べなく
樹皮にはりついた芋虫さながら
オスは雪の車のライトに討ち死にしたり
氷点下だろうが狂乱舞しようさま
いったい彼らは何をするか

尻を空に高く突き出し
フェロモンを放ちやるメス
そいつを目がけて飛びきたるオス
彼らはいっせいに貪りつづけるのだ
煤け褪せたクリーム色の羽をばさばさと
もくもくと性の饗宴をひたすら

                  (10・1・1)

     

     

   

「とりあえず」というスタンスで、

不定期にして未整理のまま、これから気まぐれに、

詩のようなものを、文のようなものを、綴ってゆくつもり。

以下、ひやかし半分でおつきあいご笑覧ください。

二〇一〇年正月 正津勉

   

   

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